お部屋に癒しをくれる観葉植物。買ったばかりの頃は元気だったのに、なんだか最近元気がなくて…なんて経験、ありませんか?
実は、観葉植物を元気に育てるには、適切な「肥料」の与え方と、植物がどのように成長するのかという「仕組み」を知っておくことがとっても大切なんです。
今回は、植物の成長メカニズムから、肥料の選び方・与え方、そしてよくある失敗談まで、初心者さんでもバッチリわかるようにシンプルに解説します!
2025年5月時点のシロウト園芸が使っている肥料、活力剤と与え方
私が使っている肥料、活力剤はこちら(使用頻度の高い順)。あまりいろいろ使いたくないけど、いっぱいあるのでローテ気味で使っています。
元肥料
植替え時に土に混ぜる。両方いれることが多い。マグァンプはく溶性多め(根っこで溶ける)なので効果が長く安全寄りですが、効きをコントロールしにくいというデメリットもあるようです。
- マグァンプK(中粒/大粒)
- アヅミン(腐植酸苦土肥料)
液体肥料
毎回の水やりに液体肥料を薄めに入れて与えています。室内温室やベランダの植物はあまり薄めずに与えています。肥料2回に1回程度の活力剤を与えるときとたまのリセットの水やりのときは与えません。
く溶性の液体肥料は即効性が低いが安全寄りですが、水耕栽培では使いません。
- 微粉ハイポネックス(水溶性肥料)
- アヅリキッド(腐植酸苦土肥料)
- ハイポネックス原液(く溶性多め)
- 住友液肥1号(水溶性肥料)
- ハイポニカ液体肥料(水溶性肥料)
活力剤
肥料の合間に活力剤を与えています。
- レコルト(腐植酸入り活力剤?)
- リキダス
- メネデール
シロウト園芸コミュニティにいる農家さんから教えていただいたデンカさんのアヅミン、アヅリキッド、レコルトを腐植酸苦土肥料として活用しています。
植物が育つ!「成長のメカニズム」をサクッと理解
植物がどうやって大きくなるのか、まずはその基本から見ていきましょう。
めちゃくちゃ簡単に言うと、植物の成長は「太陽の光と水と空気と土の栄養を使って、細胞を増やし、大きくしていくこと」です。
光合成(ごはん作り): 葉っぱが太陽の光エネルギーを使い、空気中の二酸化炭素と、根から吸い上げた水を材料に、植物のごはん(糖分=エネルギー源)を作ります。これが「光合成」です。
栄養の吸収(おかず集め): 根っこが土から水と一緒に、成長に必要な栄養分(チッソ、リン酸、カリウムなど)を「おかず」のように吸い上げます。
細胞分裂と成長(体を作る): 作った「ごはん(糖分)」と集めた「おかず(栄養分)」を使って、植物は新しい細胞をどんどん作ります。細胞が増えたり、一つ一つの細胞が大きくなったりすることで、植物はぐんぐん大きく育っていきます。
植物が肥料を吸収するメカニズム
植物が肥料を吸収するメカニズムを、めちゃくちゃシンプルに説明するとこうなります。
肥料が溶ける: 肥料は水に溶けて、植物が吸える「ちっちゃな栄養の粒(イオン)」になる。
根が吸い込む: 植物の根には、水を吸い上げる「ストロー」みたいな部分がある。このストローは、水と一緒に溶けた栄養の粒も一緒に吸い込む。
特定の栄養を狙う: 根には、さらに特定の栄養の粒だけを選んで細胞の中に「運び込むドア(輸送タンパク質)」がある。濃度が低くても、エネルギーを使って無理やり吸い込むこともできる。
全身へ運ぶ: 根が吸い込んだ水と栄養は、植物の中を通る「水の道(導管)」を通って、葉っぱや茎、花など、植物の全身に運ばれる。
つまり、「肥料が水に溶けて、根が水を吸うついでに栄養も吸い込み、さらに選んで取り込んで全身に運ぶ」という流れです。
輸送タンパク質とは
輸送タンパク質をめちゃくちゃ簡単に言うと、
「細胞の壁にある、特定の物質だけを通す『扉』や『トンネル』」
です。
普通の物質は細胞の壁を通り抜けられないけど、輸送タンパク質という「扉」や「トンネル」があると、必要な物質(栄養や水など)だけがうまく細胞の中に入ったり、いらない物質が細胞の外に出たりできるようになります。
まるで、特定の鍵がないと開かないドアや、特定の電車しか通れない線路のようなものです。
植物の「ごはん」!肥料の基本と与え方
植物が元気に育つには、光合成でごはんを作るだけでなく、土からの栄養(肥料)も不可欠です。
1. 肥料の種類と選び方
肥料には大きく分けて2つのタイプがあります。
置き肥(元肥)(固形肥料):ゆっくり効くごはん
特徴: 粒状の肥料を土の上に置いたり、混ぜ込んだりします。水やりのたびに少しずつ溶け出したり根の酸で溶けて、ゆっくり長く(1〜1年)効果が続きます。
メリット: 一度置けば手間がかからず、与えすぎの心配が少ないです。
使うシーン: 植え付けの時や、定期的な栄養補給に。
液体肥料:すぐに効くジュース
特徴: 水で薄めて、水やりと同じようにあげます。すぐに吸収されるので、早く効果が出ますが、効果は長く続きません。
メリット: 植物の様子を見ながら、必要な時にすぐに栄養を補給できます。
使うシーン: 成長期に元気がほしい時や、花を咲かせたい時など。
2. 肥料をあげる「3つのコツ」
肥料で失敗しないためのコツは、この3つを覚えることです。
① いつ?(時期):
多くの観葉植物は春から秋(4月〜10月頃)が成長期。この時期に肥料をあげましょう。
冬(11月〜3月頃)はお休み期間なので、基本的には肥料をあげません。
② どれくらい?(量):
「少なすぎるより、多すぎる方が危険!」 これが鉄則です。
必ず肥料のパッケージに書いてある量や薄める倍率を厳守しましょう。迷ったら少なめからスタートするのが安全です。
③ どんな?(種類):
植物の種類や、葉を大きくしたいのか、花を咲かせたいのかなど、目的に合わせて選びます。観葉植物なら、葉を育てる窒素(N)がやや多めの肥料がおすすめです。
肥料が効かない!「なぜ?」と「こうすれば解決!」
「ちゃんと肥料をあげてるのに、なんで元気にならないの?」そんな疑問、よくありますよね。これにはいくつかの理由が考えられます。
1. 肥料焼け(あげすぎによる根のダメージ)
これが最も多い失敗です。
メカニズム: 土の中に肥料が多すぎると、根っこの周りの水が「塩辛い」状態になります。すると、植物の根っこは水分を吸い上げるどころか、逆に土に水を奪われてカラカラになってしまいます。これが「肥料焼け」です。
症状: 葉の先端や縁が茶色く枯れる、全体的にしおれる、元気がない。
解決策: すぐに肥料を取り除き、鉢底からたっぷり出るくらいの水で土の中の肥料を洗い流します(フラッシング)。ひどい場合は植え替えも検討します。
2. 休眠期に肥料を与えている
メカニズム: 冬など植物がお休みしている時期は、栄養をほとんど吸収しません。この時に肥料をあげても、土の中に溜まってしまい、春になって活動を始める時に肥料焼けの原因になることがあります。
解決策: 冬は基本的に肥料をストップしましょう。
3. 根詰まりを起こしている
メカニズム: 鉢の中で根がぎゅうぎゅうに詰まってしまうと、水や養分をうまく吸収できません。
症状: 水をあげてもすぐに鉢底から出てしまう、葉が小さい、成長が止まっている。
解決策: 一回り大きな鉢に植え替えてあげましょう。
4. 土の環境が悪い(水はけ・通気性・微生物)
メカニズム: 古い土や水はけの悪い土では、根が呼吸しにくかったり、肥料がうまく吸収されなかったりします。また、土の中の微生物(菌根菌など)が少ないと、植物が吸収しにくい形の栄養を吸収しやすくしてくれる助けがありません。
ワンポイント知識:菌根菌(きんこんきん)
植物の根っこと「お互いに助け合う、とっても良い友達キノコ」。
植物が自分で取りにくい栄養(特にリン)や水を、自分の手足(菌糸)で集めて植物にあげ、代わりに植物から光合成で作った「おやつ」(糖分)をもらっています。
良い土には、こんな微生物も元気に活動しています。
解決策: 新しい観葉植物用の培養土に植え替えるのが一番です。
5. 病害虫や根腐れで植物が弱っている
メカニズム: 植物自体が病気だったり、根が腐っていたりすると、肥料どころではありません。
症状: 葉が変色して落ちる、茎や幹がブヨブヨしているなど。
解決策: まずは病気や根腐れの原因を取り除き、植物を回復させてから、肥料は少量ずつ与え始めましょう。
無機質用土と化成肥料の組み合わせがよくない理由
無機質用土と化成肥料の組み合わせが「良くない」とされるのは、いくつかの理由があります。厳密には「絶対ダメ」というわけではありませんが、その特性を理解せずに使うと問題が起こりやすく、植物の生育にとって望ましくない状況を生み出しやすいからです。
主な理由は以下の3点です。
養分保持力の低さ(肥料が流れやすい)
無機質用土の特性: 赤玉土、鹿沼土、パーライト、軽石などは、有機物がほとんど含まれていないため、養分を吸着して保持する力が非常に低い(「陽イオン交換容量(CEC)」が低い)。
化成肥料の特性: 化成肥料は、水に溶けやすい無機塩類の形で養分を含んでいます。
問題点: 無機質用土に化成肥料を与えると、水やりのたびに肥料成分がすぐに水に溶け出して、鉢底から流れ出してしまいやすいです。これは肥料の無駄になるだけでなく、環境への負荷(河川への養分流出など)にもつながります。植物も必要なときに必要なだけの養分を効率的に吸収しにくくなります。
肥料焼けのリスクが高い
無機質用土の特性: 養分保持力が低いため、肥料成分が土壌中に蓄積されることなく、濃度が非常に高くなりやすいです。また、緩衝作用(pHや濃度が急激に変化するのを防ぐ働き)もほとんどありません。
化成肥料の特性: 速効性のものが多く、一度に与えすぎると土壌中の肥料濃度が急激に跳ね上がります。
問題点: 有機質を多く含む土壌であれば、ある程度は肥料成分を吸着・緩衝してくれるため、急激な濃度上昇を防げます。しかし、無機質用土ではそれができないため、化成肥料を与えすぎると、根の周りの養分濃度が急激に高まり、「肥料焼け」(根が水分を失い、枯れてしまう現象)を引き起こすリスクが非常に高まります。
土壌の緩衝能力の欠如と微生物活動の不足
無機質用土の特性: 有機物が少ないため、土壌のpH(酸性・アルカリ性)を安定させる「緩衝能力」が低いです。また、肥料成分を植物が吸収しやすい形に分解したり、土壌環境を健全に保ったりする微生物の活動がほとんど期待できません。
化成肥料の特性: 化学的に合成された成分なので、土壌微生物の働きを前提としていません。また、種類によっては継続的な使用で土壌のpHを酸性化させやすいものもあります。
問題点: 緩衝能力が低いため、水や肥料の種類によってpHが急激に変動し、植物が養分を吸収しにくい状態になったり、根にストレスを与えたりします。また、微生物の活動が少ないと、土壌全体の健全性が維持されにくくなります。
菌根菌と輸送タンパク質の関係
菌根菌と輸送タンパク質の関係をめちゃくちゃ簡単に言うと、
菌根菌は、植物の根が届かない場所から栄養を集めてきて、それを「輸送タンパク質」という『運び屋さんのドア』を使って、植物の根の中に渡してあげる役目です。
つまり、
- 菌根菌: 広ーい土の中から栄養(特にリン)を拾ってくる。
- 輸送タンパク質: その栄養を、植物の根っこの細胞の中へ運び込むための「専用の入り口(ドア)」として働く。
菌根菌がせっかく栄養を見つけてきても、それを植物が取り込めなければ意味がないので、この「輸送タンパク質」が、菌根菌からの栄養をしっかり受け取るための大事な役割を担っている、という関係です。
植物に肥料を与えないとどうなる?
植物に肥料を与えないと、短期的には大きな問題がなくても、長期的にはさまざまな影響が出ます。特に、土壌中に元々植物が必要とする栄養素が不足している場合や、同じ場所で何度も栽培を繰り返している場合は、その影響が顕著に現れます。
肥料を与えないことによる主な影響は以下の通りです。
生育不良(成長の停滞)
原因: 植物は光合成で養分を作りますが、土壌から吸収する無機養分(窒素、リン酸、カリウムなど)も成長に不可欠です。これらの養分が不足すると、細胞の生成や分裂が滞り、茎や葉が大きくならず、全体的に成長が停滞します。
症状: 草丈が伸びない、葉の数が少ない、茎が細い、全体的に小さいまま、などが挙げられます。
葉色の悪化(黄化など)
原因: 特に窒素は葉緑素の主要な成分であり、不足すると光合成能力が低下します。マグネシウムや鉄なども葉緑素の生成に関わります。
症状: 葉が全体的に薄い緑色になったり、黄化したりします。特に古い葉から症状が出やすい傾向があります。これは、植物が新しい葉を育てるために、古い葉から養分を移動させるためです。
花や実がつきにくい、または品質の低下
原因: リン酸は開花や結実、根の成長に重要な役割を果たします。カリウムは、光合成産物の転流や果実の品質向上に関わります。これらの養分が不足すると、花芽の形成が悪くなったり、咲いても花が小さかったり、実が少なかったり、味が落ちたりします。
症状: 花が咲かない、咲いても貧弱、実がならない、実の大きさが小さい、味が薄い、色づきが悪い、などが起こります。
根の成長不良
原因: リン酸やカリウムは根の成長を促進する働きがあります。養分不足により、根が十分に発達しないと、土壌からの水分や養分の吸収能力が低下し、悪循環に陥ります。
症状: 根の張りが悪い、細根が少ない、水やり後もすぐにしおれやすい、などが挙げられます。
病害虫への抵抗力の低下
原因: カリウムは植物の細胞壁を丈夫にし、病害虫への抵抗力を高める働きがあります。養分不足で全体的に植物が弱ると、病原菌や害虫が侵入しやすくなります。
症状: 病気にかかりやすい、害虫に食害されやすい、といった状態になります。
株全体の寿命が短くなる
原因: 慢性的な養分不足は、植物に常にストレスを与え続けます。これにより体力が消耗し、抵抗力も低下するため、最終的には枯れてしまう可能性が高まります。
まとめ
植物に肥料を与えないと、成長が遅れ、見た目が悪くなり、花や実がつきにくく、病害虫に弱くなり、最終的には枯れてしまう、という悪循環に陥る可能性が高まります。
もちろん、土壌が元々非常に肥沃であったり、植物が休眠期に入っていたりする場合には、すぐに目に見える影響が出ないこともあります。しかし、特に鉢植えの植物は土の量が限られているため、土中の栄養がすぐに枯渇してしまいます。適切な時期に適切な量の肥料を与えることは、植物を健康に育て、その能力を最大限に引き出すために非常に重要です。
植物の声を聞いて、愛あるケアを!
観葉植物を健康に育てるには、肥料の適切な使い方を知ることがとても大切です。 「時期」「量」「種類」の3つのコツを意識して、植物の様子をよく観察してあげましょう。
もし「元気がないな」と感じたら、肥料のあげすぎや土の環境など、今回ご紹介したポイントを確認してみてください。あなたの愛あるケアで、観葉植物はきっとイキイキと輝き続けてくれますよ!
何か困ったことがあったら、ぜひまた教えてくださいね!
おまけ プロ農家さんにいただいた肥料や薬のまとめ
シロウト園芸コミュニティに参加していただいて、参加者としてだけではなくコミュニティメンバーの相談役みたいにお世話をしてくれている農家さんから肥料や薬を頂いたのでAIに教えてもらった内容をご紹介しておきます。
また使った感想などはご紹介します。
サンピプラス(亜リン酸カリ肥料)
サンピプラス」は、OATアグリオ株式会社が製造・販売している葉面散布用肥料「サンピシリーズ」の一つです。
葉面散布肥料は、作物が根からだけでなく、葉からも養分を吸収する能力を利用して、必要な栄養を効率的に補給するためのものです。これにより、作物の増収や品質向上、樹勢回復などが期待できます。
サンピプラスの主な特徴は以下の通りです。
- りん酸と加里の強化剤: 主成分はリン酸(46.0%)、加里(30.0%)、苦土(1.0%)で、特にこれら2つの要素を補強したい場合に有効です。
- 用途: 果実の肥大期や生殖生長期(花が咲き、実がなる時期)に特に効果を発揮するとされています。
- 使用方法: 他のサンピシリーズ製品(サンピ833neo、アミノサンピ)と併用し、生育に応じてりん酸・加里を強化したい時に添加して使用します。
- 希釈倍率: 散布は750倍~1500倍で使用し、育苗期に多量使用する場合は1500倍で使用することが推奨されています。
- 幅広い作物に対応: さまざまな作物に使用できます。
サンピシリーズには、サンピプラスの他に「サンピ833neo」(窒素、リン酸、カリ、有機酸、糖、微量要素配合)や「アミノサンピ」(窒素、リン酸、カリ、アミノ酸、微量要素配合)があり、作物の種類や生育状況、目的に応じて使い分けたり、組み合わせて使用したりします。
エスレル(エチレン)
「エスレル」は、石原バイオサイエンス株式会社(旧 石原産業株式会社)や日産化学工業株式会社などから販売されている植物成長調整剤の商品名です。有効成分は「エテホン」で、これは植物が自然に生成する植物ホルモン「エチレン」と同じような作用を持つ物質です。
エチレンは、植物の成長・発達に関わる重要なホルモンで、特に成熟、老化、落葉、開花、発芽などに影響を与えます。エスレルは、このエチレンの作用を人工的に利用することで、農業において様々な目的で活用されています。
エスレルの主な特徴と用途は以下の通りです。
1. 作用機序:
エスレル(エテホン)は、植物体に散布されると、植物体内で分解されてエチレンを発生します。この発生したエチレンが植物の生理作用に影響を与え、様々な効果をもたらします。水に溶けやすく、水溶液として散布できるため、使用が簡単です。
2. 主な効果と対象作物:
エスレルは非常に多岐にわたる効果を持つため、様々な作物と目的に利用されています。
- 着色・熟期促進:
- トマト、かんきつ類(きんかん、はっさくなど)、なし(長十郎、豊水、二十世紀、新水、幸水などを除く)、ぶどうなど
- 果実の成熟を早め、均一な着色を促進することで、収穫時期を調整したり、品質を向上させたりする目的で使われます。特にトマトの加工用栽培や、パインアップルの計画的な収穫に利用されます。
- 摘花・摘果・落葉促進:
- なし、ぶどうなど
- 過剰な花や果実を自然に落とすことで、残った果実の品質や肥大を促したり、翌年の着果を安定させたりします。ぶどうの落葉促進は、収穫後の剪定作業を容易にする目的でも使われます。
- 開花促進・抑制:
- パイナップル:開花を促進し、収穫時期を揃える。
- きく:開花を抑制し、出荷時期を調整する。
- 倒伏軽減(稈長短縮):
- 大麦、小麦、未成熟とうもろこしなど
- 茎の伸長を抑制することで、作物が倒れにくくし、収穫作業を容易にします。
- 花ぶるい防止:
- ぶどう(巨峰など)
- 開花期の生理的落花(花ぶるい)を抑え、着果率を高めます。
- 花芽形成促進:
- なし(新興など)
- 翌年の花芽形成を促し、安定した収穫を目指します。
3. 使用上の注意点:
- 希釈倍率と散布量: 作物や目的によって、適切な希釈倍率と散布量が定められています。これを守らないと、薬害(落葉、裂果など)を引き起こす可能性があります。
- 散布時期: 効果が発揮される時期や、薬害のリスクを避けるために、適切な散布時期が指定されています。特に、熟期促進の場合は未熟な時期に散布すると、品質の劣る果実になることがあるため注意が必要です。
- 残効性: 散布後、植物体内で急速に分解されてエチレンを発生するため、エスレル自体の残留量は急激に低下し、数日後にはほぼ消失するとされています。
- 混用: 他の薬剤との混用が可能かどうか、事前に確認が必要です。特に、カルシウム剤などと混用することで、エスレル単用での品質低下を軽減できる場合があります(例:パインアップル)。
- 気象条件: 気象条件(特に高温や乾燥)によっては、薬害が出やすくなることがあるため、注意が必要です。
エスレルは、農業生産の効率化や品質向上に貢献する重要な植物成長調整剤ですが、その効果が高いゆえに、使用方法を誤ると逆効果になる可能性もあるため、製品ラベルの指示をよく読み、適切に使用することが不可欠です。
BioOrganics Ectomycorrhizal Inoculant(菌根菌)
「BioOrganics Ectomycorrhizal Inoculant」は、BioOrganics社が製造・販売している**外生菌根菌(Ectomycorrhizal fungi)の接種剤(イノキュラント)**です。
菌根菌(Mycorrhizal fungi)とは、植物の根と共生関係を築く真菌(カビの仲間)の総称です。この共生関係は、植物と菌類双方にとって非常に有益なもので、植物の生育を大きく助けることで知られています。菌根菌には大きく分けて「内生菌根菌(Endomycorrhizal fungi)」と「外生菌根菌(Ectomycorrhizal fungi)」の2種類があります。
BioOrganics Ectomycorrhizal Inoculantの特徴と、外生菌根菌の一般的な役割は以下の通りです。
BioOrganics Ectomycorrhizal Inoculantの特徴
BioOrganics社は、長年菌根菌製品を commercial growers(商業栽培農家)に提供してきた実績があり、その製品はオーガニック認証(OMRI listed)も取得していることが多いです。
- 有効成分: 主に複数の種類の外生菌根菌の胞子が含まれています。具体的な種類は製品によって異なりますが、Pisolithus tinctorius (キツネタケの仲間) や Rhizopogon 属などが含まれることが多いです。
- 用途:
- 樹木や一部の植物の定着・生育促進: 特に、外生菌根菌と共生する樹木(マツ、オーク、カバノキ、ユーカリなど、針葉樹や特定の広葉樹)の植栽時や移植時に使用されます。
- 土壌改良: 菌糸が土壌の構造を改善し、水はけや通気性を向上させます。
- 栄養吸収の促進: 後述するように、菌糸が根の表面積を拡大し、リン酸や窒素、水分の吸収を助けます。
- 製品形態: 粉末(微粒化されているため、水に混ぜて使用することも可能)や液体の形態があります。
- 使用方法:
- 植え付け時に、根に直接まぶす、植え穴に混ぜ込む。
- 既存の植物の株元に散布し、土壌にすき込むか、水で浸透させる。
- 育苗培土に混ぜ込む。
- ハイドロポニックス(水耕栽培)での使用が可能な製品もあります。
外生菌根菌(Ectomycorrhizal fungi)の役割と植物へのメリット
外生菌根菌は、植物の根の細胞内に侵入せず、根の表面を網状の菌糸で覆い(菌鞘)、一部の菌糸は根の細胞間に入り込みます(ハルティヒネット)。
- 栄養素の吸収促進:
- リン酸: リン酸は土壌中で移動しにくく、植物が吸収しにくい形態で存在することが多いですが、外生菌根菌の菌糸は根よりもはるかに細く、広範囲に伸びるため、土壌中のリン酸を効率的に探索し、植物に供給します。
- 窒素、カリウム、微量元素: 他の栄養素の吸収も促進します。
- 水の吸収: 菌糸が土壌中の水分をより効率的に吸収し、植物に供給することで、乾燥ストレスへの耐性を高めます。
- 病害抵抗性の向上:
- 菌根菌が根の周りに物理的なバリアを形成したり、植物の免疫応答を活性化させたりすることで、土壌病原菌からの保護に役立つことがあります。
- 土壌構造の改善:
- 菌糸が土壌粒子を結びつけ、団粒構造の形成を促進します。これにより、土壌の通気性、保水性、排水性が向上し、根の健全な発達を助けます。
- 環境ストレスへの耐性向上:
- 干ばつ、塩害、重金属汚染など、さまざまな環境ストレスに対する植物の耐性を高める効果が報告されています。
- 樹木の定着促進:
- 特に新しい植栽や移植された樹木はストレスを受けやすく、菌根菌の接種によって定着率や初期成長が大きく改善されることがあります。
外生菌根菌を必要とする主な植物
外生菌根菌は、主に以下の種類の樹木と共生します。
- 針葉樹: マツ、モミ、トウヒ、カラマツ、ツガなど
- 広葉樹: ブナ、カバノキ、オーク(ナラ)、ポプラ、ユーカリ、イチョウなど
逆に、多くの草本植物、野菜、果樹(リンゴ、ブドウなど)は主に内生菌根菌(アーバスキュラー菌根菌)と共生します。したがって、「BioOrganics Ectomycorrhizal Inoculant」は、これらの外生菌根菌と共生する特定の樹木を対象とした製品であり、一般的な野菜や花には適さない場合があります(BioOrganics社は内生菌根菌製品も販売しています)。
製品を選ぶ際には、ご自身の育てたい植物が内生菌根菌型か外生菌根菌型かを確認し、適切な製品を選ぶことが重要です。
ランマン(白斑の葉枯れを延命)
「ランマン」は、石原バイオサイエンス株式会社が製造・販売している殺菌剤のブランド名で、主に「ランマンフロアブル」という製品が広く知られています。有効成分は「シアゾファミド」です。
この薬剤は、特に**卵菌類(らんきんるい)**に属する病害に高い効果を発揮します。卵菌類とは、かつてカビの一種と考えられていましたが、現在では菌類とは異なる生物群として分類されています。べと病や疫病、ピシウム病、根こぶ病などがこれに該当します。
ランマンフロアブルの主な特徴は以下の通りです。
- 優れた防除効果:
- べと病、疫病、ピシウム病、雪腐病、根茎腐敗病、白さび病などの卵菌類病害に非常に高い効果を示します。
- 特にアブラナ科作物の根こぶ病に対しても有効です。
- 新規作用機作:
- 有効成分のシアゾファミドは、これまでの殺菌剤(フェニルアマイド系、ストロビルリン系など)とは異なる新しい作用機作を持っています。具体的には、病原菌のミトコンドリア内膜の複合体III(シトクロムbc1複合体)の酵素活性を阻害することで、エネルギー生産を妨げ、病原菌を死滅させます。
- このため、既存の薬剤に耐性を持つようになった病原菌に対しても効果が期待でき、耐性菌管理において重要な役割を果たします。
- 優れた残効性と耐雨性:
- 一度散布すると、作物に長く留まり、安定した効果を発揮します。
- 散布後、薬液が乾けば、雨が降っても効果が落ちにくい特性があります。
- 予防効果と次世代菌密度低減効果:
- 主に予防効果を発揮する薬剤ですが、胞子(遊走子)のうの形成を阻害する作用も優れています。これにより、病原菌の次世代の増殖を抑え、圃場全体の菌密度を効率的に減少させる効果(サニテーション効果)が期待できます。未感染の葉への病害進展も防ぎます。
- 作物への安全性:
- 多くの適用作物において薬害が観察された事例は少なく、安全性の高い薬剤とされています。
- フロアブル剤(液体の懸濁剤)なので、収穫物への汚れが少ないという利点もあります。
- 幅広い適用作物:
- 稲、ぶどう、かんきつ、いちじく、日本なし、小麦、あずき、だいず、えだまめ、ばれいしょ、キャベツ、カリフラワー、はくさい、きゅうり、メロン、トマト、なす、ねぎなど、非常に多くの作物に登録されています。
使用上の注意点:
- 予防効果が主体のため、病害の発生前または発生初期に散布することが推奨されます。
- 作物や病害の種類、時期、散布方法(葉面散布、育苗箱処理、株元灌注など)によって、希釈倍率や使用回数、使用時期が細かく定められています。必ず製品ラベルの記載事項を確認し、遵守することが重要です。
- 蚕に影響があるため、桑葉にかからないように注意が必要です。
ランマンフロアブルは、多くの農家でべと病や疫病対策に利用されている、信頼性の高い殺菌剤です。
スミセブン(矮化剤)
「スミセブン」は、住友化学株式会社が製造・販売している植物成長調整剤です。特に「スミセブンP液剤」という製品が一般的です。その名の通り、植物の成長をコントロールし、特に矮化(わいか)、つまり植物体の丈を低く抑える効果が特徴です。
有効成分は「ウニコナゾールP」で、これはトリアゾール系の植物成長調整剤に分類されます。
スミセブンの主な特徴と効果
- ジベレリン生合成阻害:
- スミセブンは、植物体内でジベレリンという植物ホルモンの生合成を阻害する作用があります。ジベレリンは植物の茎や葉の伸長を促進するホルモンであるため、その合成を抑えることで、植物の伸長を抑制し、丈を低く抑えることができます。
- これにより、徒長(茎がひょろひょろと伸びすぎること)を防ぎ、がっしりとしたコンパクトな株を育成するのに役立ちます。
- 矮化(わいか)効果:
- 観葉植物や花卉(ポットマム、ポインセチア、つつじ類、アゲラタム、日々草、ペチュニア、ゼラニウム、金魚草、はぼたんなど)の鉢物栽培において、節間の伸長を抑制し、草丈を低く抑えることで、見た目の良い商品価値の高い鉢物を作るために利用されます。
- いちご(とよのかの促成栽培)やきゅうり、なすなどの野菜でも、徒長防止や草勢コントロールに用いられることがあります。
- 健苗育成:
- 水稲、てんさい、キャベツ、レタス、たまねぎなど、育苗期間が長く、徒長しやすい作物において、育苗期の伸長を抑制し、健苗を育成するのに効果的です。
- 徒長を防止することで、根張りが良くなり、移植後の活着率や初期生育が安定するといった利点があります。
- 機械移植作業の効率化にも貢献します。
- 着花促進効果:
- 一部の作物では、節間の伸長抑制と合わせて、着花(花芽の形成)を促進する効果も報告されています(例:つつじ類)。
主な適用作物と使用方法
- 花卉類(鉢物): ポットマム、ポインセチア、つつじ類、アゲラタム、日々草、ペチュニア、ゼラニウム、金魚草、はぼたん、ヒペリカム、シンフォリカルポス、ヒマワリなど。
- 主に茎葉散布や土壌灌注(鉢土に直接散布)で処理されます。
- 野菜類: いちご(とよのか(促成栽培))、きゅうり、なす、トマト、ピーマン、キャベツ、レタス、たまねぎ、てんさいなど。
- 育苗期の徒長防止や、定植後の草勢コントロールに使用されます。種子浸漬や育苗箱処理、茎葉散布、土壌灌注など、作物や目的に応じた様々な方法で施用されます。
- 水稲: 育苗期の徒長防止として、種子浸漬や育苗箱への散布が行われます。
使用上の注意点
- 適切な濃度と時期: スミセブンは非常に効果が高い薬剤であるため、作物や品種、生育段階、栽培環境(温度、光)によって、使用濃度や使用時期を厳密に守ることが重要です。過剰な濃度や不適切な時期に散布すると、過度の矮化や生育遅延、葉の変形などの薬害を引き起こす可能性があります。
- 混用: 他の薬剤との混用は避けるべきとされています。
- 効果の現れ方: 茎葉散布の場合、速やかに効果が現れます。土壌灌注の場合は、徐々に効果が現れ、効果が持続する傾向があります。
- 作物への浸透性: 根部から速やかに吸収され植物全体に移行し、茎葉に散布した場合は上方へ移行しますが、下方移行性はありません。
スミセブンは、農業や園芸において、作物の形態をコントロールし、生産性や品質を向上させるための重要なツールとして活用されています。使用の際には、必ず製品ラベルの記載事項をよく読み、正しく使用することが求められます。
サイコセル(矮化剤)
「サイコセル(Cycocel)」は、BASFジャパン株式会社などから販売されている植物成長調整剤の商品名です。有効成分は「クロルメコート(Chlormequat)」で、これも植物の成長を抑制し、特に**矮化(わいか)**を促す効果を持つ薬剤です。
サイコセルの主な特徴と効果
- ジベレリン生合成阻害: サイコセルの有効成分であるクロルメコートは、植物の茎や葉の伸長を促す植物ホルモンであるジベレリンの生合成を阻害します。これにより、植物体の節間の伸長が抑制され、草丈が低く、がっしりとした株に育ちます。 スミセブン(ウニコナゾールP)と同様にジベレリン生合成阻害剤ですが、作用メカニズムが少し異なります。サイコセルは初期段階のジベレリン生合成を阻害するのに対し、スミセブンはより後期の段階で作用するとされています。
- 倒伏軽減: 特に小麦の栽培において、倒伏(植物が風雨などで倒れてしまうこと)を軽減する目的で広く利用されています。茎を短く、丈夫に育てることで、収穫作業の効率化や収量・品質の安定に貢献します。多肥栽培などで倒伏しやすい状況で特に有効です。
- 健苗育成: 一部の作物(例えば、イネ科牧草)の育苗段階で、徒長を防ぎ、根張りの良い健苗を育成するのに使われることがあります。
- その他: 海外では、花卉(ポインセチア、ゼラニウムなど)の矮化剤としても利用されていますが、日本では小麦への使用が主です。
主な適用作物と使用方法(日本では小麦が主)
- 小麦:
- 茎稈の伸長抑制、倒伏軽減が主な目的です。
- 使用時期は、春播き小麦では6葉期前後(草丈30~40cm)、秋播き小麦では幼穂形成期または出穂20~10日前(草丈約40~60cm)が適期とされています。
- 茎葉散布で使用されます。
使用上の注意点
- 劇物指定: 日本では医薬用外劇物に指定されており、取り扱いには注意が必要です。使用にあたっては、販売店や病害虫防除所などの指導を必ず受けてください。
- 適切な濃度と時期: 非常に効果が高い薬剤であるため、指定された使用量、使用時期、使用方法を厳守することが重要です。特に、時期が遅れると効果が劣ったり、濃度が高すぎると薬害(葉の黄化など)を生じることがあります。
- 気象条件: 高温時の散布は薬害のリスクを高めることがあるため、晴天の日は日中を避け、夕方に散布することが推奨されます。
- 周辺作物への配慮: 本剤は他の作物にも微量で影響を及ぼす可能性があるため、周辺の作物にかからないように注意が必要です。
スミセブン(ウニコナゾールP)との比較
どちらもジベレリン生合成を阻害する矮化剤ですが、以下の点で違いがあります。
- 有効成分:
- サイコセル:クロルメコート
- スミセブン:ウニコナゾールP
- 作用機序の細かな違い: 両者ともジベレリン生合成を阻害しますが、阻害する酵素の段階が異なります。
- 主な用途と登録作物:
- サイコセルは、日本では主に小麦の倒伏軽減に特化して使われています。
- スミセブンは、花卉(鉢物)の矮化や、野菜、水稲の健苗育成に幅広い適用があります。
- 毒性区分: サイコセルは医薬用外劇物であるのに対し、スミセブンP液剤は普通物です。
サイコセルは、小麦の安定生産に欠かせない重要な植物成長調整剤ですが、その強力な効果ゆえに、細心の注意を払って使用する必要があります。
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